百尺の大地に創られた現代の池泉回遊式庭園
江戸開府より将軍のお膝元といわれ、五街道の起点でもあった日本橋。この歴史的つながりに加え、三越本館の高さと皇居の標高が同じであることに着想を得て、百尺の大地と銘打った「日本橋庭園」の屋上に、皇居の植生に習った緑を再生しました。東京の中心に、豊かな森があることに感謝し、令和元年にその思想をつないでいきたいとの思いから、屋上の緑を「つながりのもり」と命名し、日本の自然観から生まれた「庭屋一如」の思想を、池泉回遊式庭園の手法によって再現しています。
夏には、緑陰に水を張り深い庇を穿って涼を取る。冬には、林床に光を落とし薪炭で暖を取る。築百年を経過した構造体に負荷をかけない設計上の工夫を随所に施しながら、人と自然の関わりあいの中で生まれた日本の原風景を、切妻の屋根と在来種の木々で表現。軽快な鉄骨造による大屋根の柱は、加重を分散させるために既存建物の頭柱と接合し、大屋根には環境センサーで制御される開閉式の天幕を組み込んでいます。庭園の象徴となる方形の池は、既存建物の吹抜け上部に位置しており加重条件が最も厳しい場所にあるのですが、FRP防水による軽量工法の採用により30㎜の水厚で鏡面のような池を実現。大きな庇の下、縁側空間から眺める緑が昼夜・四季を通じて水面に映り込み、日常時には大屋根のもとで庭園をゆったりと観賞できるだけでなく、イベント時には舞台の印象的な背景となるよう照明の演出にも様々な工夫を凝らしています。
つながりの拠点として栄えてきた日本橋三越にふさわしい庭園の佇まいが完成した背景には、この場所を支えてきた先人の想いや、その想いを未来につなごうとする人々の不断の努力があります。この場所が、人と自然のつながりを取り戻す新たな拠点となって、ここ日本橋から成熟した日本のライフスタイルが世界へと発信されることを願っています。
事業名 日本橋三越本館屋上改修工事
所在地 東京都中央区日本橋室町1-4-1
日本橋三越本館屋上階
用 途 重要文化財
庭園、商業、イベント広場
事業主 三越伊勢丹
設 計 ランドスケープ・プラス
構造:金箱構造設計事務所
照明:トミタ・ライティングデザイン・オフィス
防水改修:横河建築設計事務所
施 工 庭園:イビデングリーンテック
大屋根・防水改修:清水建設
規 模 屋上面積:約8,490m²
竣 工 2019年